2022年度
2022年度は、槇作品について4つの特質に着目して研究対象としました。
集合体と対称性
研究者:石珂鳴(政メM1)
キーワード :
類似した対称形と非対称形
対称形の崩し
コンテクストに呼応した対称形
局所的な対称形
軸の異なる対称形
槇文彦の建築について語る際、作品に対称形のイメージを持つ人は少ないのではないだろうか。槇文彦の作品のうち83作品から対称形を探したところ、様々なかたちで対称性が存在することに気付いた。そして、局所的あるいは全体のシルエットとして用いられる対称形は、周辺のコンテクストとの呼応や集合体のデザインの手法の一つとして使われているのでは、と思い至った。
大空間建築と祝祭性
研究者:小菅千絵(環境B3)
キーワード :
屋根の形状、観客席の配置、観客の収容人数
槇文彦は丹下健三氏の国立代々木競技場について語る際に、競技場の建物としての魅力を「人々が感動を共有できる祝祭性」と表現しており、私はこの“祝祭性”という言葉に着目した。祝祭性を「沢山の人が集まってある一つのものごとに熱量を注ぐこと」と定義すると、それはスポーツに限らず、音楽イベント等にも視野を広げることができる。実際、近年建てられた大規模な体育館には音響設備も整備されており、スポーツ以外も視野に入れられていることがうかがえる。槇は漫画『SLAMDUNK』の舞台にもなっている藤沢市秋葉台文化体育館をはじめ、東京体育館や幕張メッセなどを手がけているが、祝祭性のある大空間建築としての在り方に大きな影響を与えたのではないかと考え、屋根の形状と観客席の配置および収容人数の3点からその“祝祭性”を探ることにした。
1956年以降の大空間建築を分類集計してみると、これらの作品以降、祝祭性の高い有軸曲線の大屋根や曲線型の観客席、そして観客席数も増加し、その影響の大きさを感じることができた。
団地とアーバニズム
研究者:賀山遥斗(環境B3)
キーワード :
低層高密で奥行き感を感じさせる街区構成
多様性とまとまり感を両立させた街区構成
槇文彦はヒルサイドテラスを始め幾つもの集合住宅を手掛けているが、本研究では、そのうちいわゆる“団地”に着目し、横浜市金沢区にある「金沢シーサイドタウン」と多摩ニュータウンの「都営南大沢団地」を取り上げ、槇が団地を計画する際に持ち込んだアーバニズムについて、当時の典型的な団地と比較しながら検討した。
「金沢シーサイドタウン」では埋立地で奥行き感を持った住空間を、「都営南大沢団地」では与えられた街区の中で、多様さとまとまり感を両立させた街区を生み出そうと試みていたのではないだろうか。
ヒルサイドテラスと代官山
研究者:村松毅(政メM1)
キーワード : 「ヒルサイ度」の創発
代官山ヒルサイドテラスは1967年から1992年まで25年間をかけて開発されたが、その間、東京都渋谷区・代官山という塀に囲まれた住宅が立ち並んでいたこの地も大きな変化をしてきた。
ここでは、住宅地であった代官山のまちがどのように今日の姿へと変わってきたのか、ヒルサイドテラスがどう影響を与えていたのか、について、周辺の建物がヒルサイドテラスに似ている度合い「ヒルサイ度」を設定し、1964年から今日まで分析した。
分析の結果として、3期完成後の1983年から6期完成後の1993年に大きな変化があったことがわかる。また、そこから2013年までの20年で旧山手通り沿いだけでなく、その裏手まで影響が及んでいることがわかる。
謝辞
慶應義塾大学SFCと槇文彦ルームについて
SFC寄附講座「槇文彦建築とアーバニズム思想」について
槇文彦アーカイブは、槇文彦氏と槇総合計画事務所の.多大なご協力により実現しています。
また「槇文彦建築とアーバニズム思想」は株式会社竹中工務店様による寄附講座として開講しています。
ここに感謝の意を表します。
1858年に福澤諭吉により設立された慶應義塾大学の11あるキャンパスのひとつとして、神奈川県藤沢市に1990年に開設された湘南藤沢キャンパスは、槇文彦氏が全体計画と主要な建物を設計しています。そのキャンパス中央にあるメディアセンター4階に、槇文彦アーカイブの活動拠点として「槇文彦ルーム」を設置し、今後、活動の状況や保管資料の一部を展示および紹介していく予定です。
槇文彦アーカイブは、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス寄附講座「槇文彦建築とアーバニズム思想」の以下の授業担当者によって運営されています。
政策・メディア研究科 特任教授 池田靖史
政策・メディア研究科 教授 小林博人
慶應アートセンター 教授 渡部葉子
政策・メディア研究科 特任助教 大沼徹
政策・メディア研究科 非常勤講師
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ドン・オキーフ(2021年度)